産学連携による「サマリ文書作成支援AI」の開発 ～医師の書類作成負荷を大幅軽減～
名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンターの古川大記 副センター長、白鳥義宗 センター長、名古屋大学未来社会創造機構 予防早期医療創成センターの大山慎太郎 准教授、富士フイルム株式会社らの共同研究グループは、共同研究の成果として、富士フイルムメディカルITソリューションズ株式会社の診療文書管理・診療業務支援ソリューション「Yahgee」や統合診療支援プラットフォーム「CITA Clinical Finder」に蓄積された病院の診療データを基に、記載する必要性が高いと思われる文章を診療録から抽出し、医師の文書作成をサポートするAI技術を開発することに成功しました。この技術を用いて、「Yahgee」のオプション製品として、「診療録要約支援機能」が2023年10月10日より発売されました。
全国の医療施設では、国の「働き方改革実行計画」に基づき、医師の業務負担を軽減するための取り組みが続けられています。この中で、医師の書類作成業務が大きな負担となっており、特に退院サマリの作成負担が大きいと言われています。新機能では、該当患者の入院期間中のカルテ記事からサマリに必要な情報を抽出・強調表示することで、文書作成の時間と労力を大幅に削減します。
今回の成果は、名古屋大学医学部附属病院と富士フイルム株式会社の共同研究によるものです。この取り組みを通じて、さらなる医療業務の効率化と、医師の働き方改革と質の高い医療の実現に向けた貢献を目指します。
ポイント
○ 政府の「働き方改革実行計画」に基づき、全国の病院で医療者の労働時間を短縮するための各種施策の検討が進んでいる。医師の所定外労働では、書類作成、特に作成期限の短い退院サマリの作成負担が大きかった。
○ 富士フイルム株式会社との共同研究で、「Yahgee」や「CITA Clinical Finder」に蓄積された病院の診療データを活用し、サマリに必要な情報を抽出するAIを構築した。
○ 得られた知見をもとにして、「Yahgee」に、新たに「診療録要約支援機能」として、サマリ文書作成支援AIを搭載した。この機能により、膨大な医師業務の1つである書類作成業務を大幅に効率化する事に成功した。
背景
長時間労働の是正や生産性の向上などに向けて、政府の「働き方改革実現会議」が2017年3月に「働き方改革実行計画」を決定したことを契機に、全国の病院でタスクシフト・タスクシェアなど医師の労働時間を短縮するための各種施策の検討が急激に進んでいます。
厚生労働省のデータ※1によると、医師へのアンケート調査の結果、所定外労働が発生する理由のトップは書類作成であり、直接的な診療以外の業務負荷が高いことが報告されています。その中でも、入院患者全員に対して退院後2週間以内の作成が推奨されている退院サマリは、記載すべき情報の収集・選択の煩雑さや文章への要約の難しさにより、医師が作成する書類の中でも作成の負担が大きい書類の1つであり、効率的な業務支援が求められています。さらに、時間の効率化のみならず、診療の質を向上させる個別化医療の推進に向けた業務支援も求められています。
※1 参考: 厚生労働省「平成30年版過労死等防止対策白書」より
成果
名古屋大学医学部附属病院と富士フイルム株式会社との共同研究により、「Yahgee」や「CITA Clinical Finder」の病院診療データを活用して、サマリ文書作成支援AIを開発しました。このAI技術は、「Yahgee」に「診療録要約支援機能」として統合され、実際の医療現場での文書作成を効率的にサポートします。
研究グループは、医師が退院サマリなどの書類を作成する際、記載する必要性が高いと思われる文章を診療録から抽出し、医師の文書作成をサポートするAI技術を開発しました。「Yahgee」や「CITA Clinical Finder」に蓄積された検査所見や経過記録などの診療録データから、重要と思われる単語をハイライト表示する機能や、サマリ調で記載されていた文章を抽出する機能により、退院サマリなどの書類に記載すべき情報の収集・選択や要約にかかる時間を短縮し、書類作成にかかる医師の負荷を軽減します。この機能により、質の高い医療の提供が可能となります。
今後の展開
本研究の成果を基に、さらなる業務効率化と質の高い医療提供のための取り組みを進めていきます。医療データとAI技術を組み合わせた新たな製品やサービスの研究開発を目指し、医療従事者の働き方改革の推進、質の高い医療の実現に寄与してまいります。
※2 ハイライト表示される単語および文章は、サマリの候補です。本機能は自動的にサマリを確定するものではありません。